銭っ子 水島新司の隠れた名作 百円札に込められた銭神の想い

銭は唄う 天使の歌を

銭は唄う 悪魔の歌を

かわるメロディー 歌い手しだい

銭っ子 あらすじ

両親の死

東京のとある高級住宅地の豪邸で父母そして妹の亜子と暮らす、気が弱く臆病な中学3年の中馬健。

ある日両親と亜子が神戸の親戚の結婚式に行くため、一人で留守番をすることになった。

しかし三人は帰る途中交通事故にあってしまう。亜子は無事だったものの両親は帰らぬ人になってしまった。

すぐに健の家に集まった親戚たちは兄妹二人の事はそっちのけで、財産の分与の事で大ゲンカを始める。

しかしそんな状況でも健はただただ泣くだけだった。

結局兄妹は神戸にある父の弟である叔父の家に引き取られ、そこで生活することになる。

さまよえる子羊

神戸での生活は完全に邪魔者扱いで、部屋は与えられず寝場所はその家の子供部屋の押し入れの中。

そして二人は学校さえ行かせてもらえない。

叔父は「働かざる者食うべからず」と言い、亜子は家のお手伝い代わり、健は叔父の経営するレストランで働かされることに。

そんな辛い毎日が続く中、ある日亜子が「ご飯を食べさせてもらいない」と打ち明けると、健は叔父たちに両親の財産はどうしたのかと聞くが彼らは知らないの一点張り。

らちが明かない健は亜子に何か食べさせるため、隠しておいた両親の形見のビデオカメラを売って金を作ろうとする。

だがカメラ屋のオヤジにひどく買い叩かれたうえ、そこにやってきた叔父には勝手に持ち出したと泥棒呼ばわりされる。

結局1円も作れず途方に暮れて海まで来た二人。

あのしっかり者で強かった亜子に「おにいちゃん、パパとママの所にいきたい」と泣いてせがまれる健。

「亜子おいで」

二人は手を取り合い海に飛び込んだ。

ガタロ船での生活

健は気付くと汚いガタロ船の中で寝ていた。この船の船長に助けられ亜子も無事だった。

そして健と亜子はそのガタロ船で生活することになった。

(ガタロ船とは、長い柄の付いた網で川底の鉄やビンをさらい、それをスクラップとして売るための船)

健はそれから一日中川の底をさらう毎日。それでも手に入るお金は100円ちょっとにしかならない。

健は今までの生活がどれだけ贅沢だったのか、金というものがどれだけ大切なものなのかを身に染みて感じていた。

そんなある日、船長は酔っぱらいのケンカに巻き込まれ大ケガをする。

健は船長を背負ってあちこちの病院を回るが、ガタロ船の人間だと知るとどこの病院も診てくれない。

ただ貧乏だからという理由のために。

金の大事さ、貧乏の苦しさを思い知らされた健は、銭を稼ぐために亜子を残しガタロ船を出ていくことを決めた。

銭神との出会い

ガタロ船と飛び出したものの、一銭もない健は途方に暮れ街をさまよい続けた。

その時ある一人のコジキが目に入る。

コジキなら元手はいらないとマネをしてみたものの、そんなに簡単にいくはずもない。

そんな健に「家に帰れ」と声をかけてきたコジキだが、実は高級車を乗り回し、神戸芦屋に大豪邸を持つ大金持ちだった。

健をただの家出少年だと思っていたコジキはその身の上を聞き、なぜその後も意地でも自分から離れないのかを理解する。

コジキは悪どい親戚の行為に対しても「だまされる方がアホ」「目には目、銭には銭じゃ」と言い放つ。

「ほんまの銭儲け教えたる」その言葉で健は銭儲けのそのいろはを教わることになった。

そしてそのコジキを銭の神様「銭神」と呼ぶようになる。

だがそんな銭神は健を助けるどころかいつも金儲けの邪魔し、そして自分の儲けにしていく。

それでも金持ちになるため、そして親戚に復讐するために銭神から意地でも離れようとしなかった。

次第に彼の目は気弱な少年の目から、疑い深く鋭い目つきに変わっていく。

そしていつも銭神の金儲けに利用され続けてきた健は、ある方法で4000万を手に入れる事に成功する。

今度は逆に銭神を「利用」して。

銭神はもうお前は金持ちだから一人でやって行けと言い残し去っていった。

そして餞別にくれたのは、たった1枚の百円札だった。

(この漫画が連載されたのは昭和50年前後で、その当時の4000万を現在の価値に直すとおよそ1億5000万ほどだと思われる)

一文無し

その後亜子を迎えに行った健は、大金を手にし慢心したのか土地の売買で騙され4000万のほとんどを無くしてしまう。

だが亜子と一からやり直すことを決め、小さな商売からコツコツと金を増やしていたさなか、ある時両親の財産でスーパーの経営を成功させていた叔父に偶然再会する。

その後商売がたきとして叔父と戦うことになるのだが、最後には争いに負けてしまい、健はまた一文無しになってしまう。

金持ちになることも親戚への復讐への希望も失った健。

悪いことは重なるもので、その頃亜子が結核にかかってしまう。だが保険にも入っていないし入院させる金もない。

途方に暮れた健に出来るのは、靴磨きで日銭を稼ぐくらいのことしかなかった。

そんな大雨の日、弱り切ってやせ細った健の前に「さあ磨け」と下駄の足を差し出す男に健は「ふざけるな」と顔を上げた。

そこにいたのは、あの銭神だった。

 

 

銭っ子 百円札の意味

このあとラストまでもう少しあるのですが、ここから先は書きません。

決してイジワルなんかではなく、本当にこの作品を実際に読んでもらいたいんです。

全5巻のマンガで現在はプレミアがついているんですが、それでも絶対に買って損のない内容です。何とか入手して是非読んでみてください!

私も古本屋で見つけて読んだ時は本当に衝撃を受けて、今でも人生のバイブルとして大切に持っています。

銭神が別れの際に健に渡したたった一枚の百円札。

この百円札こそが、このストーリーの主題だったような気がします。

何もかも無くして銭自体が恐ろしくなっていた健が、唯一怖くなかった銭がその百円札でした。

健は銭神に再会した後、あんなに警戒心が強く鋭かった目つきが徐々に元の少年らしい純粋な目に戻ってきます。

そしてラストシーンは本当に涙なしに見ることは出来ません。

本当に名作中の名作です!